第三章、旅は道連れ

 ティアがゲトリスクに破門されて既に四日。
 短い期間の師弟関係ではあったが、そしてこき使われまくった期間でもあったけれどティアにとって学ぶことの多かった日々でもある。
 そしてゲトリスクの見せた凄まじい異能の力。
 遥かな昔ではシャーマンとして神官達もその力をふるっていたと聞くが、今では祈祷や予言の一部を残したのみで魔術は分離され、古代から受け継いだ知識を専門に研究している者たちを総称して魔術師と呼んでいた。
 自然の力を自在に操り、やりようによっては道具を介して人の心さえも動かすという魔術であるが、ティアが今まで見たことがあるのはせいぜい目の前の対象物に着火させたり水面に波を起こしてみせたりという程度である。
 たった一撃で人を二人も焼き殺してしまうなどという離れ業は既に人の域を超え、知識と戦の神ヴァナルの眷属に匹敵するほどの存在の貴重さと言えた。
「いや、待てよ。もしかして私が知らないだけで、本当に力のある魔術師は表に出てこないだけなのだろうか?」
 人気の無い昼下がりの山道で一人、馬上のティアは首を傾げる。
 元を辿れば神職かもしれないが、世間的に魔術師の地位は神官ほど高くない。というよりもすっかり魔術が日常と宗教から姿を潜めてしまった今日、人々は自分には無い超越した力を畏怖するきらいがあり、自然と魔術を扱う者は人里離れた所に住んでひっそり研究を行うようになったということである。
 ゲトリスクも各国を渡り歩き行く先々で必ずしも魔術を行うわけではなく、基本的には自分で調合した薬などを売って生計を立てていたようだ。
 魔術を習う必要性に駆られた時、たまたま同じサンブルクに凄い魔術師がいるという噂を聞きつけて迷わず弟子入りしたティアであったが、実は想像以上に格の高い魔術師に弟子入りをしていたらしい。
 何せ人語を喋るトカゲを使い魔にしているくらいである。その希少さは砂浜の中から小さな奇石を探し出すようなものなのかもしれない。
 しかしその幸運な偶然も、あっさり破門されてしまった今ではへこんだティアの気持ちを更に沈みこませる要因でしかなかった。
 共に行動している時は腹立たしいことばかりだと思っていたが、こうして改めて考えてみると思った以上にこの奇妙な修行の旅の終了を惜しんでいる自分がいる。
「二度と顔を見せるな」と言われてもそのまま来た道を引き返す気にもなれず、かといって新たな魔術の師匠を探すあても無ければ気力も無い。
「やはり謝り倒してもう一度弟子入りさせてもらおう。きっと師匠は予定通りドーフィネスの都トゥールに向かっているに違いない」
 落ち込んでは考え込み、その結論に至ってはまた思い出したようにしょげかえる。
 たった一人の旅路は想像以上に孤独で不安であった。とりあえず方角は間違っていないとは思われるが、今進んでいる山道がちゃんとトゥールに繋がっているかどうかさえ、道を尋ねる相手がいない現状では確証が無いのだ。
 ため息を一つついた時、同時に腹の虫が大音量で抗議の声を上げる。
 結局四日前の川原では幸いなのかどうかカエルを食べ損ね、一応兵士の亡骸を片付けてから悩んだ末に翌朝トゥールに向かい始めた。
 残っていた食料はゲトリスクの乗っていた馬の荷袋に入っていたし、ティアに残されたのは腰元の荷袋の中に入っていた干し葡萄くらいのものだった。
 自分で歩いていなくとも、さすがに毎日馬に揺られての移動なのだからこれだけでは厳しい。
「お腹が空き過ぎると気が遠くなるのだな……初めて知った」
 森の中ならともかく、今通っている山道は不毛な岩場ばかりで動物の姿も殆ど見かけられない。
「お前は良いな。餌になる草はどこにでも生えている」
 ぼうっとたてがみを撫でながら、ティアはいっそこの馬を食ってやろうかとも思ったが、いつ辿り着くのかも分からない人里まで自力で歩くのはもっと気が遠くなりそうな気がした。
 左は山の岩肌が剥き出しになった絶壁。ぎりぎり馬車が通れるだけの道幅はあるが、その右端は遥か下方に流れる川まで急な角度の斜面が続いている崖であった。
 まだまだ続きそうな道の前方を再びため息をつきながら見やった時、ティアは何かの気配を感じて左側の絶壁を仰ぎ見る。
「何だ?」
 空から降ってくる陽光に目を細めながら首を傾げた時、ティアの顔の前すれすれを一本の矢が駆け抜けた。幸い狙いは逸れたが、続いて二本、三本と降り注いでは矢が深々と地面に突き刺さる。
「ヒィィィィィン!」
「落ち着け、どう、どう!」
 突然の襲撃に少女は驚いたが、一番驚いたのは馬である。
 手綱を持つティアの手が一瞬緩んだその時。馬は前足を高く跳ね上げ嘶くと、背中に乗せた人間を振り落として一目散に駆け出したのだ。
 ティアは地面に叩きつけられ、一瞬息が止まる。
 あわや斜面を落下し川底へまっしぐらという所で、何とかぎりぎり斜面に生えている低木にしがみ付いた。
 咳き込みながら見上げると、土煙を上げ馬が猛烈な速さで走り去って行くではないか。ティアは口を半開きにしたままその光景をただ見送り、呆然とした。
 斜面から隠れるようにして崖の上を確認する。どうやら矢を放った人物は既に姿を消した後のようで、とりあえずの危険は去ったようだった。だがしかし
「そ……そんなことを言っている場合じゃないだろう」
 落馬しても幸い大きな怪我はしなかったが、食料も無い、馬も無い、山中では助けてくれる人間もいない上に、腹が減り過ぎて力も出ない。
 始めから状況は悪かったのに、何だかあっと言う間に救いようの無いどん底の危機に陥ってしまったようである。
「あの馬め、今まで一緒に旅をしてきた仲ではないか。主を放り出して逃げるなど恩知らずな」
 その仲間である馬を一瞬でも食べようと考えた思い遣りのある主人は、顔も服も泥だらけにして残った力を振り絞り自分の身長の二倍の距離を這い上がった。
 擦り傷をいっぱいつくりやっと平坦な地面に身体を乗り上げると、道の上に寝転がって馬の走り去った方角を眺める。
 世の中はそれほど甘くは出来ていない。期待した蹄の音は地面に耳をつけても聞こえてくることは無かった。
「疲れた。お腹が空いた…………ついでに頭がくらくらする」
 日ごとに強くなる日差しがティアの身体めがけて真っ直ぐ降り注がれる。額から流れ落ちる大粒の汗は止まることが無く、すっかり顔面を蒼白にした少女はそのまま目蓋を閉じた。

 混濁した意識の中で、ティアは不意に日差しが遮られ自分が影に覆われていることに何となく気づいた。
 頬に刺激が伝わるが、鉛のように重くなった両目蓋は小刻みに揺れるだけで開けることができない。
「仕方が無いな」
 声が聞こえたかと思うと、背中に逞しい腕が差し入れられた。身体が宙に浮き、肩に担ぎ上げられたようで胸が圧迫されて苦しさに眉根をしかめる。
 誰だ。そう尋ねたかったが、言葉は音にならずにそのまま夢うつつの世界へと吸い込まれて行った。
 

 扉をそっと開けて覗き込むと、金糸で装飾された花模様の美しい寝台に横たわるのは白くて細い美しい女性であった。
「お母様?」
 戸口から赤い髪を覗かせ、幼女ははにかみながら大好きな母のご機嫌を伺う。
 以前勢い良く中に飛び込んで母を驚かせ、具合を悪くさせて祖母に叱られたことがあったからだ。
「おいでなさい、私のティア」
 やっと四歳になったばかりの小さな娘を枕元へ呼び寄せると、ヘルミーネ・フォン・ダールベルクは上身を起こして微笑を浮かべる。
 ティアが物心つく前から寝たきりになっていた母は、数年前に事故で腰骨を折って以来自分の足で歩くことが適わない人であった。
 薄い金色の長い髪を一つに編んで肩に垂らし、娘と同じ澄み渡った青い瞳は主神ヴァナルの妻、愛と豊穣の女神フリッガを彷彿とさせる。
「今日はね、トーマスと一緒に森に行ったの。ウサギさんがいて追いかけっこもしたよ」
「あらあら、また勝手に屋敷を抜け出したのね。後でお祖母様に叱られてよ」
 トーマスというのはティアが最近仲良くなった庭師の息子である。二人とも活発な性格なので、様々なことをしでかしては大人たちに渋面をつくらせているのであった。
 もっとも、今回一番叱られるのは屋敷のお嬢様を外に連れ出した(と周囲の大人に決め付けられる)気の毒なトーマス少年に違いないのだが。
 毛艶の良い馬の尻尾のような赤い髪に枯葉が絡まっているのを見つけると、ヘルミーネは笑いながら白い指でそれを摘み取る。
 ティアは寝台によじ登って小さな手を伸ばすと、母に抱き付き優しく甘い匂いに包まれて満足気に息をついた。
 それはとても優しい記憶。
 母がその年の冬を越すことができず、亡くなる数ヶ月前の思い出であった。

「知っているかい、四年前に起きたダールべルク伯爵の事件を」
 そのダールベルク伯爵というのはティアの伯父を指すものではなく、既に亡くなっている先代伯爵、つまり母ヘルミーネの実父を指す言葉であった。
 母が亡くなり母方の実家から父の元へ引き取られたティアは、心無い使用人の噂話と視線に晒されて今にも窒息して溺れ死んでしまいそうであった。
 それまでティアが住んでいたのはダールベルク家の所領内にある本宅であり、王都サンブルクからは遠く離れた気楽な田舎暮らしである。使用人も町の人々も素朴で優しく、だからこそ一層都の冷たい風は幼子の心に辛く感じられるのであった。
「もしかしてあなたがティア? その赤い髪とっても綺麗だわ、時々わたくしとお話してくれると嬉しいのだけれど」
 差し出された細くて白い手。
 作法の教師から逃げる為に幾つもある長い廊下をさ迷い、隠れるようにしてティアが飛び込んだ部屋の奥にその少女はいた。
 父の元にはティアにとって腹違いの姉妹が二人いた。ちょうどティアを挟んで、上と下に二歳違いの姉と妹が。   
 特に姉のウェリフィンは、生まれつき身体の弱い子供だった。
 しかし扉を開ければ殆どいつもベッドの上に居る事や、淡い金の色をした絹糸の様な髪と優しい眼差し。姿こそ幼いが、姉はティアにとって儚く消えた母に多く重なる存在となったのである。
 実の母を無くした悲しみも都に連れられてきた寂しさも、ティアはこの心優しい姉ウェリフィンをこっそり訪問して優しい言葉を掛けてもらうことで心を癒した。
 半年程過ぎた頃にはすっかり元の活発なティアに戻り、避暑地の湖畔へ皆と出かける程に他の人間達とも打ち解けていたのだった。
 そしてティアが剣の道に目覚めるきっかけになった事件が起こったのもその時である。
 一緒に来られなかったウェリフィンの為に一人花を摘みに抜け出した所を攫われ、通りがかりの男に偶然救われたのだ。
 彼はあっと言う間に不埒者達の腕から少女を解放すると、並み居る屈強な男達をいとも簡単に蹴散らした。
 草むらの中からその頼もしい背中を必死に視線で追った弱冠五歳のティアは、子供心に「こんなふうに格好良くなりたい」と女の子にしてはいささか微妙な路線に志を見出すこととなるのである。
 そう。おぼろげながらにも覚えている恩人の背中はあんなふうに長身で逞しく、しかし流れの剣士にしてはすらりとした立ち姿で……
「――――ふ、ふぇ?」
 何ともいえない浮遊感と冷たさ。それに身体と服の間を通り抜けて行く流動的な感触に、ティアのぼんやりとした頭が現実の世界に戻ってくる。
 夢の中で見たあの背中が目の前にそびえていた。やはりまだここは、夢現の狭間なのだろうか。
「ってそんな馬鹿なことがあるかーっ」
 目をかっと開き、一気に水面から上半身を起き上がらせると眩暈がして頭がぐらついた。頬も髪も服も全てから滴をしたたらせ、ずぶ濡れになったティアは顔を顰めながら額に手を当てる。
「やっと気付いたか。ずっと寝てるようならそのまま捨てていこうかと思ったんだが」
 幻だと思っていた背中が振り向いた。太陽の陽光を背後から受け顔の中が陰になってよく見えないが、どうやら若い男のようだということは分かる。
 ほんの一瞬だけゲトリスクの気が変わって戻ってきてくれたのではないかと思ったティアは、心の隅で小さく落胆するのだった。
 それにしても何故自分の身体がずっぽりと川の浅瀬に浸かっているのか、それが一番の疑問である。
「日にやられたんだよ。それにしても一番日の高い時間に道の真ん中で寝そべるとは、日光浴にしては随分と思い切った方法だ」
 疲労と空腹、それと日射病で意識を失ったわけで、ティアは別に寝ようと思って道で寝そべっていたわけではない。
 皮肉めいた男の言葉は微妙に気に食わなかったが、水に浸かっているのが日射病の治療の一環なのだと分かれば文句を言うこともできなかった。
「どなたかは存じ上げないが、助けていただいて……」
「俺はお前を知っているぞ、ティア」
「は?」
 燦々と降り注ぐ陽光が、つかの間空を流れる雲に覆われて力を弱める。慣れてきた視界の先に立っていた人物は青い上衣に黒いズボン、皮の長靴を履いた出で立ちで、一つに束ねた黒髪を肩に垂らしていた。鳶色の瞳が真っ直ぐこちらに視線を返す。
 この顔はどこかで見たことがある……と、記憶を遡ること数秒。
 途端に眉を吊り上げ、派手に水しぶきを上げながらティアは立ち上がると叫んだ。
「あーっ、先日の裸体男!」
「裸体ってお前……。大体、服を着たまま水浴びする人間がいたら教えて欲しいもんだな。ああ、居たかそこに」
 くっくと笑いながらずぶ濡れのティアを一瞥すると、川原に立っていた男はゆっくりと歩き出す。
 木陰には馬が繋がれていた。男が手綱を解くのを何とはなしに眺めていたティアは、よくよくその馬を見てはっとする。
「じゃあな」
「ちょっと待ってくれ」
 既に馬上の人となった黒髪の男を呼び止め、ティアは馬に駆け寄った。
「やはりそうだ、これは私の馬だ。逃げてしまったと思っていたが、戻ってきてくれたのだなお前」
 長い鼻を撫でてやると、馬は小さく嘶いてみせる。しかしその馬に跨る人間の方は、この感動の再会に感銘を受けることはなかったようだ。
「この馬は一頭でさ迷っているところを俺が見つけたのだ、既にお前の所有ではない」
「何だと、では私にこの山道を歩いて抜けろというのか」
「あのまま放っておけば命も危うかったかもしれないのに、命の恩人に対して随分ではないか。ふふん?」
「うっ、確かに助けてもらったことに対しては感謝している。しかし私はトゥールに行かなければならないのだ、食料も無いからできるだけ早くどこかの村に行きたいし」
「王都へ行くのは俺も同じだが、徒歩には飽きた。よって馬を譲るわけにはいかん」
「それは困る!」 
 結局何だかんだと押し問答の末、最終的に男の方が妥協案を提示した。
「仕方が無い。行き先も同じなら一緒に旅をするしかないな」
「ええっ」
 赤髪の少女がこの上なく嫌そうな表情を見せたので、男の方もそれなりに気分を害したらしい。横を向いて相手に聞こえない程度に小さく呟いた。
「大体な、俺だってあいつがうるさく言うから……」
「え?」
「何でもない。それにお前、反論するくらいなんだから当然トゥールへの道も知ってるんだよな?」
「も、もちろん」
「たまたま俺は野暮用で回り道していたから通りかかったが、この道は真っ直ぐ都には続いていないぞ」
「…………も、もちろん」
 窮地を救ってもらった時点で既にティアの分が悪かったわけだが、この一言で勝敗は決したようである。
 見たところ歳は二十前後くらいであろうか。十七歳のティアよりも少し上に見えるだけの若い男。
 老いたゲトリスクならいざ知らず、こんなどこの馬の骨とも分からぬ男と一緒に旅をするなどと国元の皆が知ったら何と言うだろう。
 だがいざとなれば得意の剣術で力技に訴えれば良いと最終的に自分を納得させ、ティアは不承不承頷くのであった。
「イルゼが知ったら怒りで卒倒しそうだな」
「イルゼ?」
「私の一番の友達だった娘だ」 
 過去形で語られた言葉をそれ以上追求することはなく、黒髪の男は馬上から手を差し伸べる。
 いつか月夜の下で見た白銀の槍が、鞍の側面に引っ掛けられているのが視界に入った。不本意ながらも「覗き」扱いされたことをふと思い出し、ティアの顔が一瞬引きつる。
「俺はクロウだ」
「クロウ、変な気を起こしたら叩き斬るからな」
 クロウの手を取って馬の背に上がり、前部分に跨った少女は毅然と言い張る。しかし背後の男はもう一つ上手だったようだ。
「心配ない。俺はもっと凹凸のはっきりした身体でなければ女とは認めん」
「大きなお世話だ!」
 そして第二の旅路は、いささか先行き不安な様子で始まるのだった。


 磨き上げられた白大理石の柱が左右に立ち並び、見上げる天井には弓なりの曲線を描いた梁がせせり出して神殿内の厳かな空気をその内におし抱く。
 高い位置に作られた幾つもの明り取りの窓から注ぎ込まれるのは、太陽の女神ソルヴァが人々に与える恵みの光だ。
 ノルグ大陸の北西部の人々が信じる神々は最初の創造神ユミルから全てが始まり、その息子であるヴァナルが率いる神々を総称してヴァナル神族と呼んだ。
 その主神ヴァナルを祀るドーフィネスの王都でも一番格式の高い神殿の中で一人、足音を忍ばせるように出口へ向かう男がいる。
 灰色のローブを身に纏った中肉中背の男の名はダヴィドといい、ドーフィネス国の聖導神官という神職についている人物だった。
 中流の家庭に育った彼は十三歳の頃に神学校に入学し、常に優秀な成績を収めて華々しい神職者街道を押し進んできた。
 奢らず、出しゃばらず。そして努力を惜しまないひた向きな姿勢は後進の神官達の目指すところであり、三十代半ばでここまで出世したのも異例中の異例と言えた。
 だが最近、いつもは穏やかなダヴィド聖導神官がもの憂いた表情をすることが多くなったと若い神官達の間で囁かれている。
 それは半月ほど前に彼が第三王子に召し出されて以来の事なのだが、他の誰も事の真相を知る者はいないのだった。
 外に出ると、石の階段を下りた先には一人の年若い女性が佇んでいる。神殿から出てくるダヴィドを見つけると、表情をぱっと明るくさせて駆け寄った。
「お兄様」
「フラヴィじゃないか、よくここまで出てこられたな」
「ええ。オーギュスタン殿下が温泉療養に出かけられたんですけど、私は留守番なの。ちょうど良い機会だから数日お暇を頂いて宿下がりをさせて頂いて」
 十八歳違いの妹は頬を上気させ、敬愛する兄を嬉しそうに見上げる。栗色の柔らかそうなくせ毛に薄い水色の瞳。初々しい美しさを持つ娘で、先月までは宮殿で下働きをしていたがある理由から突然第三王子付きの侍女に上がったばかりであった。
「お兄様も暫くお父様に会っていないでしょう? たまには実家で夕食を一緒にと思ってお誘いに来たのよ」
「申し訳ない、私も中々忙しくてね。今夜も調べ物と書類整理が山積みなのだよ」
「もしかして大神官様、まだお悪くいらっしゃるの?」
 眉尻を下げて声を小さくする妹の髪を撫でると、ダヴィドは柔らかく笑むだけで何も言わなかった。
「暫く実家に居るのだろう? 近いうちに時間を作って顔を出すよ」
 兄妹の生家はトゥールの郊外だがそれ程遠い距離では無い。馬車なら昼過ぎに出て往復しても、夕方になる前に十分戻ってこれる場所だった。
 そうして待たせていた馬車へと戻るドレスの後姿に、ふとダヴィドは問いかける。
「宮殿の仕事は辛くないか、フラヴィ」
 軽やかに裾を翻し、振り向いた妹は破顔した。
「お兄様ったら心配性。確かに殿下は少し変わったお方だけれど、私毎日が刺激的で楽しいわ」
「そうか」
 それ以上この兄に何が言えよう。一国の王子から与えられた難問を一人抱え込み、そして飲み込み、ダヴィドは黙って妹を見送った。
 王都トゥールにある神殿はヴァナル神殿、ユミル神殿、フリッガ神殿の三つ。
 多忙な執務の間を縫うように一人きりの時間を作り、その二つまでは何度かに分けてしらみつぶしに秘密の部屋と通路の有無を探した。
 そして残るは一番人の出入りが多くて後回しにしていた、このヴァナル神殿のみである。
 代々大神官にだけ引き継がれ、王族ですら入ることの許されぬ秘密の書庫。それが見つかっても見つからなくても、何かが起こりそうな予感にダヴィドの心はうち震えているのだった。

 ◇

「まだ見つからないのか」
「は、方々手を尽くしてはいるのですがサンブルクに戻られた形跡も見られませんし、街道にもそれらしき人物を見たという情報が未だ集まらず……」
「もう良い。これでは埒があかない、私が出る」
「オスカー様、しかしそれでは」
「ちゃんと許可は取る。問題は無かろう」
 豪勢と言うほど凝った調度品は無いが、その執務室に置かれた家具も壁に掛けられた絵画も庶民には終生手にすることのできない程の値打ちものばかりである。
 自分よりも年上の部下を押しのけ立ち上がったその青年は、青い軍服に身を包んだ長身にマントを羽織ると執務室の扉を押し開いた。
 すると目の前に思っても見なかった人物が立っている事を発見し、オスカーは青い瞳を見開いて立ち止まる。
「ウェリ、なぜあなたがここに。外に出て大丈夫なのですか、身体は?」
「オスカー、わたくし居ても立ってもいられないのです。ダールベルク家の因縁があの子に何か悪いことをもたらしているのではないかと思うと、わたくし」
 淡い桃色の上品なドレスに身を包んだ金髪の美女は、そこまで喋ると自分の言葉に慄いたのか両頬を手で押さえて肩を震わせた。
 オスカーは大きな手でその細い肩を掴み、励ますように言う。
「大丈夫。あなたの妹は私と同じ師について剣術を習い、兵士達に混じって馬術の鍛錬をしてきた娘だ。その辺の男など歯も立たぬ程に強い。それに前ダールベルク卿とティアの母上は誤って露台から転落したに過ぎない。十六年も前の根拠の無い噂をあなたが信じてどうするのです」
「……そう、そうね。そうだわ、わたくしがあの子自身のことを信じてあげなければ」
 十九歳になったティアの姉ウェリフィンは相変わらず身体が弱くあったが、子供の頃ほどいつも床に着かなければいけないほどでは無かった。
 活発な妹とは違い日に焼けたことの無い肌は雪の様に白く滑らかで、金糸の髪と青い瞳は見るものを圧倒するほどに美しい。
 ウェリフィンより一つ年上の従兄弟オスカーは、ティアと幼い頃からの剣術の兄妹弟子である。その二人がウェリフィンの部屋を訪問し、賑やかさを届けるのが子供時代の一風景なのであった。
 ウェリフィンの背中に手を添えて促し、オスカーは廊下を歩き進めながら途中すれ違う部下に二、三の事を言いつけて玄関の方へと向かう。
「送ります。それとここはあなたの様な人が来る場所ではない、あまり皆に心配を掛けてはいけません。心配事はティアのようなじゃじゃ馬だけで手一杯ですからね」
 オスカーが若々しい横顔に苦笑を浮かべると、血色を失うほど固く結ばれていたウェリフィンの口元がわずかに綻んだ。
「まあ、ティアが聞いたらきっと怒りますよ」
「はは。きっと『勝負だ!』って顔を真っ赤にして剣を抜くに違いない」


「勝負だーっ!」
「はいはい」
「私は本気だぞ、何だその態度はクロウ!」
「だってお前、それもう五回目だろ。何でもかんでも怒れば良いとでも思ってるのか、単純な思考で羨ましい限りだな」
「うるさい!」
 ティアとクロウが一頭の馬を共有しながら旅を始めてまだ二日。
 やっと辿り着いた小さな農村で一息をつき、これから出発というところで馬にも乗らず村の出入り口付近で二人はもめていた。というよりもティアだけが怒っていた。
 事の始まりは、既に憤慨していたティアを見たクロウの一言からである。
「何だ、そんなに自分で手綱を持ちたいのか」
「違う。それは昨日のことだろう」
 馬での移動は後ろのクロウが手綱を取り、ずっと子供のように抱っこされている状態があまりにも居心地が悪くてティアは自分が手綱を持つと言ったのだ。
 しかし実際それをやってみると当然長身のクロウ越しでは前が見えない。ならばと前に自分が座れば、後ろになったクロウがティアの腰を持たなければならない。結局元の状態に戻って呆れられ、馬鹿にされたとティアは昨日憤慨したのである。
「で、今度は何だ」
「お前、さっきの村で村人に私のことを『弟』だと言っていただろう。知っているんだからな」
「どんな関係だって聞かれて面倒くさくてな。冗談で言ってみたら疑わないんだよ、田舎の人間は素直で良いな」
「誰が男だ。どこをどう見ても女ではないか、失礼な」
「いちいち行く先々で詳細なんて言ってられるか。ま、情婦で通してしまうのが一番面倒が無いかもしれないが」
「じょ、じょじょじょじょ」
 旅の移動方法は馬か徒歩。一つの町、一つの国を移動するだけで何日も何十日もかかるものである。長い期間共に旅を続けていると、その中から恋の一つや二つ生まれるのが自然の流れだ。
 そんな流れの商人や旅芸人達の殆どは神殿で正式な儀式をせずに連れ合っているのが一般的で、社会的に披露目もしていなければ正式な夫婦とはいえなかった。
 ティアが女性であるならば、当然説明をしない限り他人はクロウとそのような関係と見なすのが普通だというのである。
 少女の眉が吊り上り、悪びれないクロウの言葉が更に怒りの炎に油を注いだ。
「だがそれは俺様の沽券に関わる。例え嘘でも無理、男で通るのだから良い事ではないか。他の娘には中々できない芸当だな、はっは」
「何が良い事だ、この無礼者め!」
 そして始めの「勝負だーっ!」に戻るわけである。
 別にわざわざ男にしなくても「妹」と言えば良いのでは。ともう少し冷静な人間ならばそう突っ込むところなのだろうが、今のティアにそんな余裕は欠片ほども無いのだった。
 腰の剣を抜き放ち、切っ先を唯一の旅の同行者に向けて言い放つ。
「構えろ、クロウ」
「またか」
 しかし言葉とは裏腹に、クロウの表情はそれほど嫌がっているふうでもない。馬の鞍に引っ掛けてあった槍を持ち鞘を外すと、馬の綱を近くの柵に縛り付けてから振り返った。
 軽く腰を落とし、隙無く構えた黒髪の戦士めがけてティアが素早く踏み込む。
 一撃目は槍の穂先で捻り取るようにして剣筋を逸らされる。それでもすぐに振り返って負けじと槍の突きを弾き飛ばし、クロウの懐へ飛び込もうとティアは軸足で大地を蹴った。
 しかしその接近は予測済みだったのか、クロウが槍を持つ手を変えると柄の先が下から上にぶうんと振り上げられる。
 ティアの顔面すれすれを棒が掠めて行き、それ以上の接近を阻んだのだ。
 槍の最大の特徴はその攻撃範囲の広さだ。剣で対抗する場合は剣先が届く範囲まで、どう踏み込むかが問題である。
 そして踏み込まれた途端に槍使いは形勢不利に陥るので、武器の効果はお互い一長一短。結局は個人の技量次第ということになる。
「槍相手というのはなかなかに厄介だな。しかし慣れていないのならば慣れるまでのこと」
「はっは。そう簡単に懐に入らせるわけにはいかんな」
 何のことは無い。毎回「勝負」と叫んで始まるこのやり取りは、すぐに単なる剣術の鍛錬に移行しているのだ。絶えず喧嘩ばかりしているようで、その実意外にも馬が合う二人なのかもしれなかった。
 そうして暫く身体を動かしているとティアは当初の怒りを忘れてしまい、また何事も無く二人は旅を再開するのである。
「人の心根とは、こうまでも単純明快になり得るか」
「ぼうっとするな、クロウ!」
 すっかり鍛錬に夢中になっている赤い髪の少女は、独り言を呟く青年を叱咤しつつ剣を振り回すのであった。

 昼が太陽の女神ソルヴァによって平等に光を注がれるならば、夜の帳が下りた後はその双子の弟である月神マーニガンの加護によって闇夜に明かりが灯される。
 焚き火にくべられた枝が弾ける音、森の中に木霊する梟の声。それらを聞きながら瞑想に耽り、ティアは空気の球を抱え込むように少し空間をあけて両手の平を合わせている。
「おい」
 瞑想、瞑想。
「聞こえないのか。おい、ティア」
 ……瞑想。
「寝るのは良いが、よだれが出てるぞ」
 無視を続けるつもりが、焚き火を挟んだ向こうで槍の手入れをしていたクロウの言葉にたまらずティアは眉を吊り上げた。
「そんなもの出るわけないだろ。寝ているんじゃない、瞑想をしているのだ!」
「瞑想?」
「魔術の鍛錬だ。こう、周囲の力を身体に取り込んで手の中に集約されるはずなのだが。これが中々……」
「魔術ねえ、ふうん。あれは何事も静の力がものをいうからな、お前向いてないだろ」
「うっ、それは師匠から既に散々言われている。しかしそんなことを知っているとは、クロウは魔術に詳しいのか?」
 小首を傾げるティアに、クロウは微妙に顔を顰める。
「まあ、一通りはな。修行させられたから」
 思ってもみなかった言葉に、ティアは青い瞳を輝かせながら身を乗り出した。
「本当か! ならばトゥールに着くまでで良い、少し教えてもらえるとありがたいのだが」
「口で理論くらいなら教えられるが、手本を見せるのは無理だな」
「何故だ?」
「だから、苦手なんだよ。俺も」
「は?」
「術を操るよりも身体を動かす方が性に合っているんでな。魔術は義務で修行させられたが、力の加減が未だに上手くできないから滅多に使わない」
 お互い自分のことを話すのはこれが初めてのことである。「魔術を義務で修行させられるとは一体どんな家系なのだ」とは思ったが、以前月夜の下で見たクロウの胸に刻まれた文様がティアの脳裏を過ぎり、何かしら関わりがあるのかもしれないと考えた。
 ついでに水に濡れて月明かりを反射していたクロウの鍛えられたしなやかな肢体を思い出してしまい、少女の頬が自然と発熱する。
「くあーっ、どうして私が動揺しなくてはならない」
 背中を預けていた木の幹に後頭部をがんがんとぶつける乙女の奇行に、クロウは奇妙なものでも見るかのように眉間に皺を寄せるのだった。
「今どき魔術を習おうとはお前も物好きな」
「叶えたいことがあるのだ」
「美顔薬でも作るのか?」
「……まあ良い。実は私ははぐれてしまった魔術の師匠を探しているのだが、今日立ち寄った村で尋ねたら師匠は随分と前にあの村を通り過ぎているらしい。もう今頃はトゥールに着いているのかもしれないな。もしかして知らないか、ゲトリスクという魔術師なんだが」
「……いや」
「そうか。けちで高慢ちきで頑固で怒りっぽい老人なのだが、師匠の魔術は凄いのだぞ。クロウも見たらきっと驚くに違いない」
「なるほど」
 焚き火に照らされて浮かび上がる、その口元に微笑を浮かべた青年の様子が一瞬ティアの中で既視感を起こさせる。
 鳶色の瞳と、常に一つ上から人を見下ろしているような人を食った態度。決して揺るぐことの無い尊大な自尊心――――そう、ゲトリスクとクロウはどこか似ているのだ。
 嫌な類似だとティアは心の中でうんざりする。腹に一物あって普通な彼らなので、「知らない」という言葉も果たして本当であるのかどうか怪しいものだと思った。
 しかし次の瞬間、ティアは弾かれたように視線を上げて腰を浮かす。手は反射的に腰に佩いた剣の柄を握り締め、注意を促すように小さく声を漏らした。
「何かいる」
「獣ではないな。それよりもっと低俗な輩だ」
 木々の向こうの闇を眺め、落ち着いた様子でクロウが立ち上がる。
 すると、闇の向こうから複数の矢が飛んで来た。お互い近くの木の後ろへ身を隠して避けると、更にそこにも矢の強襲を受けて二人は横に飛び出すように地を転がる。
「囲まれたか」
 しかしティアが視線を巡らしても、どこに隠れているのか全く相手の姿を確認することができない。このままではいずれ矢の的になるだけだ。
「いや、そんな大勢の気配ではないな。ティアは後ろを頼む」
「え、ちょっと待てクロウ」
 止める間も無くクロウは飛び出し、白銀の槍を何も無い空間に向けて大きく一閃させた。不可解な行動にティアは周囲を警戒しつつも怪訝そうに顔を顰めたが、何もないと思っていた辺り一体が、まるで透明な硝子が壊れるように硬い音をたてて弾け飛ぶではないか。
 そして驚いたことに、崩れ落ちる欠片の向こうから弓を番えた男が三人姿を現したのである。
「幻術だ。しかしこのくらいで壊れるようでは詰めが甘い」 
 自分で魔術が苦手と言っていたくせに、他への評価基準はどうやら別物であるらしい。クロウは不適な笑みを浮かべると、すかさず前方の敵に斬りかかって行った。
 男達は三方に分かれていたので、再び飛んでくる矢を剣で薙ぎ払うとティアも負けじと反対方向へと走り出す。
 目の前に迫った一人の男の弓を中ほどで寸断し、剣を抜く暇を与えず蹴り倒した。抵抗する間もなくしりもちをついた男の首元に、ティアの剣先が突きつけられる。
「物盗りか、それとも誰かに頼まれたのか」
 鎧も着込んでいないし、ぱっと見先日川原で襲ってきた兵士達と違うことは分かっていた。だが粗野な服装に無精ひげ、文明と礼節からいかにも縁遠そうなそのなりを見てティアがはっと目を見開く。
「もしやあの盗賊の残党か」
「よくも頭領を殺しやがったな。あの崖から落ちて死んだと思ったのに、しぶとい娘だ」
「あの矢は貴様か! おーのーれー、そのせいで私がどんな目にあったとっ」
 怒りのままにティアが男の襟を持って後頭部をガンガンと地面にぶつけると、少々やり過ぎたのか盗賊はそのまま気絶してしまった。
「ふん、他愛もない。あれ……クロウ?」
 元の場所に戻ると既に辺りは静かになっており、クロウが飛び込んでいった繁みの向こうには残り二人の敵が倒されていた。だが、それをあっと言う間に成したであろう人物が見当たらない。
「何だあいつ、どこへ行ったんだ?」

 そのクロウは、三人の襲撃者の他に更にもう一人の存在を追って森の中を駆け抜けていた。
 必死に逃げているのは痩せた小男で、弓で襲撃した者達より明らかに実践向きではない風体をしている。
「カメツ、コクマー、オリエンス」
 小男の言葉が大気を渦巻かせ、旋風となって黒髪の槍使いに襲い掛かる。襲撃者の姿を隠す幻術を作り出したのは、やや離れた場所に潜んでいたこの男だったのだ。
「鍵を渡せ!」
「知らんな、そんなものは」
 魔術師の言葉を一笑に付し、鳶色の瞳に危険な光が灯される。
 放たれた術は周囲の木の枝をへし折って巻き込み、風と矢に成り代わった枝がクロウ目掛けて押し寄せた。
 強風に吹き飛ばされないように足を踏ん張り、クロウは旋回させた槍で襲い来る枝を弾き飛ばす。
 その様子を見てやはり分が悪いと判断したか、魔術師は既に背を向けて再びその場を立ち去ろうとしていた。
「一人では敵わないと見て無法者を雇ったか。逃がしはせんよ、俺に辿り着いた魔術師はな」
 クロウは右手で槍を掲げ、そして言葉を綴る。
「貫け、ブリューナク」
 特別の名を呼ばれた銀の槍はその輝きを増し、機械仕掛けの大弓から放たれたが如く持ち主の手から飛び出す。
 迷うことなく魔術師目掛け飛んで行くと、見事その心臓を背中から貫き息の根を止めるのだった。
 大地に大量の血液を染み込ませうつ伏せている魔術師に歩み寄り、クロウは槍を引き抜いてから遺骸を転がし上向きにする。
 魔術師の胸元から服越しにわずかな光が漏れていた。クロウは遺骸の首にぶら下がる皮紐を引っ張り出し、先に付いていた小さな袋を引きちぎる。
「其は神々の叡智を記した書。アヴァロンの地にて永久に眠る、全てのものの至宝なり……か」
 手にしたものはどんな望みも叶えてくれるという、幻の国アヴァロンの「神々の記憶」と呼ばれる書物。以前神官ダヴィドがドーフィネスの第三王子に尋ねられ、その時に答えた文献の一説そのままに黒髪の青年は一人呟くのであった。
 袋の中に入っていたのは赤い光を放つ不思議な石である。それを無造作に地面に放ると、クロウは槍の柄を真っ直ぐに振り落とした。
 粉々に砕けた破片が方々に散らばる。だが不思議なことに、砕ける前は赤い石だったはずが、土の上に転がっているのは炭のように黒い破片なのであった。
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