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双輪の花 〜君恋したもう〜

 少年はその日、償っても償いきれない罪を犯した。

 湿り気を帯びた草木の青い空気。行く手を遮るように次々とぶつかってくる小枝。
 なるべく音を立てないように、腕に抱えた「大事なもの」を傷つけたり落とさないように。少年は、茂みの中を慎重に潜り抜ける。
 抜け出した先は舗装もされていない裏道だ。その先に見える、日の差す賑やかな通り。
 轟音をたてて通り過ぎる馬車、急ぎ足で横切る新聞売り、日傘をさしてゆったり歩くドレス姿の老婦人。
 向こうに広がる景色は日常として当たり前の世界で、みなが忙しく日々を過ごしている。その中に紛れてしまえば、恐らく誰も自分の罪に気づくことはないだろう。
 好き放題に伸びた草を踏みしめながら幾らか進み、黙って振り返る。
 視線の先にある大きな屋敷は古いが、それ以上に手入れの行き届いた重厚さと気高さに満ち溢れていた。それこそ今さっき通り抜けてきた広過ぎる庭も、手を抜いた箇所がどこにもないくらい。
 くたびれた服の袖に額を擦りつけ、汗を拭った。心臓はばくばくと鳴り止まず、頭の中で直接鐘が鳴っているようだ。気を抜けば一瞬で意識が遠のきそうだった。
「よく眠ってる」
 視線を落とした腕の中には、柔らかな命が収まっている。温かく、優しいミルクの香りがする大切なもの。九歳の腕にその重さは段々と辛くなってきていたが、決して落とすまいと抱え直した。
 包んだ布の端から覗く淡い金髪。今は閉じられているが、目蓋の下には澄んだ青い瞳がある。それはまさしく、産後の肥立ちが悪く先日亡くなった母の面影に重なるもので、毎日自分が懸命に世話をしてきた妹の特徴だった。
「何があっても君は僕が守るよ。だって……君は僕の大切な妹なんだから」
 ごめんね。という言葉が出そうになって思わず飲み込んだ。
 許してもらおうとは思わない。だからその代わりに、自分の全てをかけて大事な妹を守ろう。そう心の中で誓った。


 今宵は満月。普段よりも視界が利くとはいえ、馬を慎重に操ってやって来たその者は全身で緊張していた。
 大昔に信仰されていた神を祀る朽ちた神殿は、町の郊外にぽつんと取り残された存在だった。昼間でも人が寄りつくことはなく、夜は更にひと気がない。
「怖いと思うから怖いのよ。要は気の持ちようだわ」
 そう言う割にしんと静まる周囲に気圧されて声が出ない。ただ緊張で乾いた喉をひゅうと鳴らしただけだ。だが他に誰もいないというのはかえって好都合である。というか、そうでなくては意味がなかった。
 鞍に括りつけておいたランタンを取り、馬を近くの木に繋ぐ。ランタンの光に照らされて浮かび上がるのは白シャツに黒の上着、ぴったりしたキュロットをはいた一般的な男装である。髪はつば広の帽子の中に全部押し込んであった。
 だが華奢な身体に対して明らかに寸法が合っていない。兄の古着の中でましなものを選んだつもりだったが、正直リアーヌも自宅で鏡を見た時は微妙だと思った。
 夜間に女性が一人歩きするなど襲ってくれと言っているようなもの。普段から無謀だの考えなしだの散々に言われているリアーヌだが、どうしても満月の今夜一人で外出する必要があったのだから、これが苦肉の策なのだ。
 ここはかつて月神を祀る神殿だった。満月の夜、敷地内にある御神木の真上に月が差しかかる時、木の根元に小瓶を置いておくと月の雫を得られるという。それには月神の魔力が込められており、飲むと願いを一つだけ叶えてくれるという伝説だ。
 伝説。いや、これは限りなく現実に近い「魔法」の一種だ。知り合いの知り合いが理想の結婚相手を手に入れただとか、病が治っただとか。そんな話を人づてに聞いているうちにいてもたってもいられなくなり、リアーヌは決行に踏み切った。
 この儀式には一つ条件がある。月の雫を得る間、誰にも姿を見られてはいけないのだ。
 リアーヌは周囲を窺いながら、満月の明かりでぼんやり浮かび上がる庭へ踏み込んだ。
 欠けた大理石の柱が闇の中で灰色に浮かび上がる。おぼろげな記憶によれば、確かこの向こうに大きな楡の木が――。
「――だとっ? じゃあ……」
 闇の向こうから聞こえてきた男の声に一瞬、心臓が止まりそうになった。慌てて瓦礫の陰に隠れる。
 覗き込んだ向こうには、御神木である楡の木の下で言い争う男が二人。片方が相手の胸倉を掴んだ時、掴まれた方の被っていた帽子が地面に落ちる。
 顔の中までは見えないが、帽子を失った男は頭頂部だけが丸く禿げて鈍く月光を反射し、もう一人は対照的につやつや光る黒の豊かな巻き毛をしていた。
 最悪だった。月の雫を得るためには誰にも姿を見られてはいけないというのに、あの二人は御神木の下から全然動く気配すらない。喧嘩なら他所でやればいいものを、どうしてよりによってここで、今夜なのか。
 リアーヌは黒い空を見上げる。聞いた話では神殿を背にして木の方へ向って立ち、ちょうどその真上に満月が……ま、満月……が……
 もう来ていた。

「信じられない。苦労してあんな所まで行ったのに、あの真ん中ハゲともじゃ髪のせいで」
 がっくりうなだれながらリアーヌは馬上で呟く。
 今は何時だろうと思いポケットを漁れば、お気に入りの懐中時計をどこかに落としたようで更にへこむ。もう一度引き返す気にもなれず、そんなに高価な物じゃなかったからと己を慰めて深い深いため息をついた。
 ロシエル国の王都は華の都とよく例えられる。昔からパトロンを求める芸術家が集まる町であり、王侯貴族は常に刺激を欲して目新しいものに飛びつこうとする。
 人が集まれば物も集まるもの。王都は夜でも営業する店が多く、今通っている石橋の上にも敷物を広げた露天商がぽつぽつと並んでいた。
 当然健全な商売だけではないから、派手な格好で隅に立っている女は客待ちの娼婦だろうし、そういった女性が集まる店は岸の向こうに沢山あるはずだ。
 リアーヌは愚痴をこぼしながらも、通り過ぎる景色をうつうつと見ているうちにようやく正気になってきた。女の身で一人夜に出歩いているという、現在を。
 しっかりしなさい、私。
 何事もなく家に辿り着くためには、これら夜の人々と関わり合いになってはいけない。目を合わせないようにできるだけ正面に視線を据え、リアーヌは馬上で背筋を伸ばす。
 橋を渡って賑やかな店が並ぶ通りまで来ると、大声で歌う酔っ払いや喧嘩の声、正体不明の奇声まで聞こえてくる。各店先にぶら下がるランタンが橙色に染める空気がいやに卑猥な感じがして、リアーヌは目深に被った帽子の下で眉根を寄せた。
 馬の脚を急かせようとした時、視界の端に知った顔が見えたような気がして振り向く。
 一見カフェにも見える店に停まった四輪馬車。そこから降りた男女二人ずつの計四人が、いかにも睦まじい様子で中へ入っていく。
 リアーヌの視線はそのうちの一人を追いかけ、見えなくなってからは店の二階を仰ぎ見た。殆どの窓は閉じられていたが、たった一つ開いていた窓辺には上半身裸の男にしな垂れかかる寝間着の女。つまりここは、恐らくそういう店なのだろう。
 先ほど見送った背中は、上背があり、ぴったり細身に作られたズボンが長い脚をより強調していた。優雅なようで実はどこにも隙がない動きは、彼が元軍人だからだ。いくら夜だからと言って、リアーヌがあの人物を見間違えるはずがない。
「って、嘘。……やだっ」
 女性と連れ立って入って行ったということは……と想像し、うろたえて馬から降りる。顔を蒼くしたり赤くしたり。様々な顔の動きを見せた後、リアーヌは盛大なため息をついた。
 こんなのはいつものこと。分かっていたはずなのに。
「実際目の当たりにしちゃうと、きついなあ」
 無理やり笑いながらこぼし、帽子のつばを顔の前にぐいと引っ張った。
「よう兄ちゃん、良い馬に乗ってるな。寄るならうちに寄ってけよ、安くしとくぜ」
「え?」
 気がついた時には目の前に中年の男が立っていた。うろうろしている様子が店を物色しているように映ったのか。
 リアーヌはなるべく低い声音を意識して言い捨てる。
「いえ、結構です」
「そんなこと言わないでさ。ちゃんと厩舎もあるぜ、うちのローストビーフは絶品なんだ。絶対損はさせねーよ」
「あああああの、本当にいいですから」
 悪い人間ではなさそうだったがいかんせんしつこい。おまけに腕まで掴まれて、リアーヌは内心飛び上るほど驚いた。
 切羽詰まって腕を振りほどこうとし、勢い余り自分の馬にぶつかる。
 それまで大人しかった馬は、急な刺激に驚いたのか突然駆け出した。
 手綱がするりとリアーヌの手から抜けていく。
「待って、どこに行くの!」
 呼びかけもむなしく、馬の尻はあっという間に闇の向こうへ消えてしまった。
 絶望の面持ちでリアーヌが振り返ると、酒場の男は口をぽかんとあけてこちらを見ている。
「あんた、女だったのか」
「へ? ……あっ」
 いつの間にか目深に被っていたはずの帽子がない。自由を得た豊かな髪は両肩を覆い、蜂蜜色の髪は月光の下でうねるような光を放った。
 澄んだ青い目に、微妙に少女らしさを残した柔らかな頬。どんな格好をしていても、素顔を見ればリアーヌの容貌は少なからず人目を引く。が、本人にあまりその自覚はない。
「俺、あんたみたいに綺麗な女初めて見たよ」
「何を言ってるんですか、私は男ですよ。男ですってば」
「こんなに綺麗なら男でもいいかもしんねえ」
「ええっ、そうくる?」
 顔を蒼くしたリアーヌが一歩下がれば、呆けた顔の男が一歩進み出る。
 周りにはいかがわしい店が沢山あるし、その辺の暗がりに連れ込まれてしまえばどうなるものか分かったものではない。いっそ大騒ぎして助けを呼ぼうかと思ったが、身分のある未婚女性が一人で夜の街を出歩くという醜聞が面白おかしく新聞に書きたてられる光景が脳をよぎり、一瞬躊躇した。
 すると後ずさるリアーヌの背中が何かにぶつかった。全身に密着した、恐らく人の感触と、首元に回された男の腕に仰天する。
 大声で叫ぶ直前「それ以上近づくんじゃない」と覚えのある声が頭上から聞こえて思い止まった。この声は
「兄さま?」
 リアーヌを後ろから捕まえたのは九つ離れた彼女の兄、リュックだった。リュックは空いた方の手で銀貨を一つ放り、酒場の男に微笑する。
「うちの馬丁が迷惑をかけたようだ、これで忘れてくれ」
「え、馬丁? でも……」
「馬丁だ。分かるだろう?」
 妹と同じ青い瞳がにぶい光を灯し、酒場の男を射抜いた。まだ二十五歳の割に、時々リュックは驚くほどの凄みを見せる時がある。きょとんとしていた男は一気に顔を引きつらせ、足をもつれさせながらその場を逃げ出して行った。
 地面に落ちていた帽子を拾ってリアーヌの頭に乗せ、どこからこんな古い服引っ張り出してきたんだか、と呟くリュックの顎が帽子越しにのしかかる。
「さてリアーヌ」
「な、何かしら兄さま」
「男爵家令嬢の我が妹が、どうしてこんなところにいる? そして先ほど走り去ったのは俺の馬のようにも見えたのだが」
「気のせいですよ旦那様」
「うちの馬丁は正直じゃないな。よし、家に帰ってからじっくり理由を聞くとしよう」
「……み、未来のノリス男爵が夜な夜ないかがわしい店で遊び歩いてるのだって問題だと思うわ。亡くなったアンリ兄さまは品行方正な人だったもの」
 もがいて何とかリュックの腕から逃れ、リアーヌは先ほど眺めていた店を指差した。彼女が見かけた人物というのはこのリュックである。
「紳士のたしなみだ。子供には関係ない」
「お忘れかもしれませんけど私はもう十六歳になりましたの。既に社交界デビューを済ませたところですわ」
「その淑女がどうして夜中に一人で出歩いている。たまたま俺が通りかからなかったらどうなってたと思うんだ」
 整った眉を寄せ茶色の短髪をかき上げるリュックは、その何気ない動作ですら無駄に美しい。青い瞳がひとたび女性を捕えれば、たちまち虜にしてしまう瞬間をリアーヌは嫌というほど見てきた。昔はそれが気に入らなかったし、今では息苦しくなるような辛さを感じるようになってしまった。
 兄なのに。生まれた時からずっと一緒に育ってきた兄なのに、自分の心は人としても道を外れてしまったのだ。
 軍人だったリュックは戦地に赴くため三年前にいなくなり、半年前に帰って来た。ノリス家の長男アンリが流行り病で亡くなったため、爵位の継承順位が一番になった次男のリュックが次期継承者として軍を退役したからである。
 二年半ぶりに兄と再会して己の気持ちに気付いてしまい、リアーヌは悩んだ。決して気持ちを誰にも覚られないように妹が苦心している間、リュックは以前にも増して遊び歩くようになり、女性の噂が絶えない有名人に定着したわけなのだが。
 どうして自分が、兄でしかもこんな女好きのろくでなしを好きになってしまったのかは大いなる謎だが、現実は着実に時間が経過する。
 とうとうリアーヌも貴族の令嬢として社交界デビューすることになり、結婚という言葉が身近なものになった。一季節で早々に相手を決めてしまう者もいれば、そうでない者もいる。
 自分の恋が成就することは一生あり得ないだろう。だがせめて、少しでも長く側にいたい。
 生涯未婚で構わない。男爵を継ぐリュックは必ず妻を娶るだろうが、未婚の妹一人くらい屋敷の隅に住まわせてくれるはずだ。
 後ろ向きなんだか前向きなんだか我ながら分からない願いだが、一縷の望みをかけてリアーヌは月の雫を取りに出たのだった。
 だからどれだけ問い詰められようと、本当の理由は言えない。言ったら最後、こんな言葉のやりとりさえもできなくなるに違いないのだから。
 黙り込んでしまったリアーヌにリュックは首を傾げる。結局は妹に甘い兄が心配気な視線を向けてくるのが分かり、余計に辛くなってしまった。
「さあ、そろそろオペラ・ブッファ(喜劇)は終いにして帰るとしようか、お二人さん」
 呼びつけた四輪馬車の扉を自ら開けて妖艶に笑む黒髪の男性は、リュックと一緒にいた片割れで友人のロベールである。一緒にいた女性達はどうしたのか、見回してもそれらしい姿は発見できない。
 兄の元軍人仲間らしいが、リアーヌは彼がどんな素性の人なのかよく知らない。身のこなしや裕福そうな様子からしても、それなりの家柄なのではないかと思うのだが。
 よく考えればロベールもあのいかがわしい店に入った一員なのだ。恭しく差し出された手を素直に取ることができずにいると、リュックに背を押されて強引に馬車へ押し込まれてしまった。

 ついに本当の理由を言わなかったリアーヌは、翌日からリュックの一存で当分の間外出禁止にされてしまった。男爵ながら事業を抱えている父は殆ど不在で、母は生まれて間もない頃に亡くなっている。つまり、今この家の長は実質リュックなのである。
 普段はへらへらしているくせに使用人の扱いが上手い兄の策略で、いつもはリアーヌの味方のメイド頭ですら向こう側についてしまった。これではもう抜け出しようがない。
「ああもう、なんて横暴なの! 自分は好きなだけ遊んでいるくせに」
「リュック様はリアーヌのことが心配なだけなのよ。でも夜に一人で外出だなんて本当に止めてね、あなたに何もなくてよかったわ」
 カップを手に微笑むのは、外出できないリアーヌを慰めようとやって来た友人のミシェルだ。おっとりした正統派美少女で、リアーヌの家とは比べ物にならないくらい資産家の子爵家令嬢だった。しかしそんなところは全くおくびにも出さず、謙虚でお人よしな美徳を備えている。自慢の友人だ。
 ときにしてのんびりすぎる彼女の言動が高飛車な他の令嬢の蔭口に上ることがあるが、リアーヌはそういう女のドレスの裾を人ごみにまぎれてふんづけてやることにしている。大好きなミシェルを悪く言う人間は、ちょっとくらいつんのめるくらい当然である。
 白っぽい明るい金髪はふわふわとして、青い目はいつも微笑を浮かべている。本当に天使がいたらこんな感じなのではないかと思うくらいだ。
「でもどうして一人で夜に出かけたの? 誰かと会うため?」
「うーん、まあ、そんなような」
「御機嫌よう、お嬢様方」
 優雅に頭を下げ、午後のテラスを通りがかったのは黒髪のロベールだった。少し長めに整えた前髪から覗く紫の目、彫像のように完璧に整った容姿。素性が謎なのも含め、リュック以上に一部の婦女子を騒がせている人だ。
「客間はそこじゃないぞロベール」
 開いたままの扉から廊下に立つリュックがこちらを見ていた。視線が合いそうになるとリアーヌはふいと横を向く。代わりにミシェルがのんびりした様子で笑った。
「お邪魔しておりますわリュック様」
「どうぞごゆっくり。いつも妹がお世話になっているお礼に、今度三人でオペラでも」
「まあ、それは楽しそうですわね」
 ミシェルは普段、男性と積極的に会話することは殆どない。のんびりなミシェルは自己主張の強い男性からのアピールについていけず、始めから敬遠しているようだった。
 だが不思議とリュックには初対面の時から自然に話している。よく一緒にいるロベールには回数を重ねるうちに慣れたようだが、挨拶程度でやはり自分から話しかけることはない。
 不意に、胸がつきんと痛くなった。
「おいおい、大事な友達を忘れているぞリュック」
「お前は他の付き合いが忙しいだろう、ロベール?」
 一人黙り込むリアーヌを置き去りに、陽気な声が室内にこだまする。
 男二人が去る気配を察して視線を戻せば、去り際のリュックの視線がこちらを向いていた。だが、目は合わない。彼の視線が己ではなく隣のミシェルに向いていると知り、今度こそナイフで胸を抉られるような気分になった。
 考え過ぎなのか。それとも
 黙って顔色を失くすリアーヌに、ミシェルが大きな目を潤ませて大丈夫かと尋ねてきた。本当に、いい子なのだ。
「ううん、何でもないの」
「本当に?」
「私はミシェルが大好きだから」
「よく分からないけれど、私もリアーヌが大好きよ。ずっとこれからもお友達でいてね」
「ええ」

 ◇◆◇

「誰かに会うためなのか……と、ミシェル嬢が言っていたな」
「何のことだ」
 客間の大きな机に散乱する書類。ソファーに身体を沈ませそれらを読みふけっていたリュックとロベールだが、思い出したようにロベールが呟いた。
「この間の夜のことさ。リアーヌが一人で出歩いていただろう」
「で、どこの誰だって?」
「さあ? そこしか聞こえなかった」
「……なるほど」
 しばしの沈黙が流れた後、ロベールは口元を緩めながら言う。
「報告書が破れる、手を離せ」
「冷静に指摘するくらいなら最後まで立ち聞きしてこいよ」
 面白くなさそうに持っていた紙を放り出し、リュックは大きく息を吐きながら天井を仰いだ。
「もう十六か、早いな」
「年頃になったらもっと早い。あっという間にどこかの馬の骨に攫われるだろうな」
「馬の骨は困るが……それも仕方ないと思っている」
「惜しくはないのか。ずっと手塩にかけてきたんだろう?」
「手塩に、ね」
 空になった己の手の平を黙って見つめる。
 十六年前、この手に収まっていた小さな命――新しい妹。それは決してリュックを許さない過去の罪だ。
 深く息を吐き出した後、首だけ動かしてロベールの方を向き苦笑した。
「今更正直に話したところで俺の罪が消えるわけじゃない」
 むしろそれをきっかけに、永遠にリアーヌと縁が切れてしまうのではないかと恐れている。
 自分はいつまで経っても臆病なままだ。三年前出征にかこつけて家を出て、思いがけなく長兄が亡くなって家に戻ることになり……結局何一つ変えることはできなかった。
「先年のバーゼル戦役で死線をさまよった時にも実家には戻らなかったのになあ」
「勝手に人の思考を読むな」
 しかめっ面でロベールを睨みつけたが、友人は意に介さず窓の方をじいっと見ていた。
 おそらくその先に、後悔という名の過去を見ているのだろう。何故ならリュックもまた、同じことが心をよぎったから。
 先の戦では沢山の仲間を失った。それが戦争というものだと言われれば仕方ないが。
「そう言えば屋敷の周りに見慣れない男がいた」
 身体を起こして険しい顔つきをするリュックを見て、ロベールは小さく笑う。
「リアーヌの馬の骨には年が行き過ぎている。愛しい娘会いたさに……とはとても思えない雰囲気だったが」
「こちらの客か。嗅ぎつけられたかな」
 どうだろうと肩を竦めるロベールに、リュックはいっそ晴れ晴れと言いのけるのだった。
「何にしてもリアーヌを外出禁止にしておいて良かっただろ。俺って先が読める男だからさ」
「そういうことにしておいてやるから、屋敷の見回りを増やしておくように。これは上司命令だ」
「了解しました、上司殿」
 ロベールは全く敬う気配のないリュックの返事を笑って受け、床に落ちた紙を拾い机の上に置いた。報告書と呼ばれた書面には、男が横たわるスケッチ画と細かい文字の羅列が続く。
 ――顔を潰された身元不明の遺棄死体。身体的特徴は黒髪の巻き毛、男性。郊外の古代神殿跡で撲殺体で発見される――


 謹慎が開けて程なく、リアーヌの元にミシェルの家で開かれる舞踏会の招待状が届いた。
 積極的に社交場に出る気がないリアーヌは、社交界デビューしたと言っても父の指示でそうさせられただけなので、実はこれが二回目の夜会である。
 ヴェルニエ子爵家と言えば王宮でも顔の利く有力貴族だ。「気軽に遊びに来て」と同封されていたミシェルの手紙と招待状を見比べ、リアーヌはしばし迷った末、受けることにした。
「だからね兄さま、一緒に行ってくれるでしょう?」
 デビューの時に世話をしてくれた叔母を当てにしていたところ、生憎とその日は用事があるということで付き添いはできないという。未婚の、しかも夜会経験の少ない娘が後見人なしで出席することはできない。リュックは普段からあちこちの夜会に顔を出しているし、ミシェルは元々顔見知りだ。すんなり同伴してくれると思っていたのに、窓枠に腰かけて行儀悪く読書をしていたリュックは渋い顔でこちらを見上げた。
「その日は他に用事があって無理だ」
「ええ、どうして? 何の用事? 他の日にできないの?」
「ああ、無理」
「どうしても?」
「どうしても」
 始めは行くかどうか迷っていたくせに、行けないとなると途端に惜しくなる。
 それに兄に同伴してもらえば、少なくとも会場に入ってしばらくは綺麗に着飾った格好で一緒にいられるはずだった。ダンスだって踊ってくれるかもしれない。恐らくその後は、魅力的な貴婦人方に囲まれて兄はどこぞへ行ってしまうのだろうが……。
 それでもいいからと、ささやかな期待を込めて頼んでみたのに。全く考える余地もなく断られてリアーヌはむっとした。
「じゃあいいわ、ロベールに頼んでよ」
「却下」
「どうして!」
「親戚でも婚約者でもない男と一緒に出席するのはあまり印象がよくない」
 落ち着き払った口調が更にむかついた。半年前に帰ってきてからのリュックはいつもこうだ。自分は好き勝手にやっているくせに、妹には随分と細かいことまで口出ししてくる。
「無理に今回行くこともないだろ。機会はまだこれから沢山ある、次は連れてってやるから」
 全然分かっていない。
 ただ舞踏会に行きたいなら、もうリアーヌは十回以上行っていてもおかしくない。それがデビューの一回こっきりなのは本人にその気がないからだ。ミシェルの家で開く舞踏会だからこそ行こうと思ったのに。次と言われてもそれは既に自分の行きたい舞踏会ではないのだ。
 始めに考えていた、兄へのささやかな期待なんてすっかりどうでもよくなっていた。
「いいわよ。私にだってエスコートしてくれる人の当てくらいあるんだから。その人に頼むわ。わたくし、お・と・なですから」
 すごく親しいわけでもないが、二年半リュックがいなかった間に知り合った男友達は数人いる。初めて出席した舞踏会で紹介された男性だっている。みんな兄と違ってリアーヌにとても親切で紳士だ。頼めばきっと快く引き受けてくれる人が一人くらいいるはずだと思った。
 本の続きを読もうとしていたリュックが、開いていた本を勢いよく閉じる。窓枠に乗せていた長い足を下ろし、身体ごとリアーヌの方を向いた。
 顔は下を向いたままだったので、立っているリアーヌからは彼がどんな表情をしているのか分からない。ただ、陽を受けて光る茶色の髪がさらさら流れる様に見惚れていた。
 一番上の兄は生まれつき身体が弱く部屋に閉じこもり気味だったため、小さな頃からリアーヌの相手をしてくれるのは次兄のリュックだった。
 リアーヌの家は始めから男爵家だったわけではない。記憶にはないが、リアーヌが三歳の頃に前男爵が後継者もなく亡くなり、回りまわって突然父が爵位を継ぐことになったらしい。
 その前に父が一度事業を失敗しているせいで随分とつましい生活を送っていたようなのだが、幸い当時のことは幼過ぎて全く覚えていない。当然乳母を雇う余裕はないから、生活が楽になるまでの殆どを、亡くなった母の代わりにリュックが面倒を見てくれていたというわけだ。
 リアーヌ、僕のお姫様。
 今では考えられないくらい昔は優しかったリュックが、小さなリアーヌをいつもそう呼んでいた。いつもひっついていたリアーヌはリュックの茶色の髪が大好きで、よく触っていたような気がする。
 今はもう気後れして、触れるどころかこっそり眺めることしかできないが。
「――馬の骨」
「え、骨? 骨がどうかしたの?」
「骨が……」
 だから骨がどうしたというのか。骨折でもしたというのか。
「分かった。何とか都合つけるから」
 深いため息をつきながらリュックはこぼし、ゆっくり顔を上げた。窓枠に座る兄とちょうど視線の高さが同じになり、至近距離にある秀麗な顔が心臓に負担をかける。
 顔が赤くなるのを感じて慌てて背け、ありがとうと短く言っただけでリアーヌはその場から逃げ出してしまった。
 こんなことくらいで動じてどうする。今後はもっと自分の心を隠して生きていかなければならないのに。
 先日の夜に見た、リュックが見知らぬ女と怪しい店へ入って行く光景が脳裏をよぎる。リアーヌは黙ったまま、唇を噛みしめた。

 あからさまに顔を背け、逃げるように去ったリアーヌの残像を追うようにリュックは開いたままの扉をぼうっと見ていた。
 こんなふうに顔を逸らされるのはもう二回目だ。外出を禁止した翌日、友人のミシェルといるところに居合わせたリュックにリアーヌは目を逸らした。あの時は外出禁止のことで怒っているせいだと思っていたが、実は他にも理由があるような気がする。
「――やっぱりあれかな」
 調査のために、二階で売春宿も経営している酒場に入るところをリアーヌに見られた。一緒にいたのは道で拾ったその店の娼婦である。
「それにしても、本当にどうして夜に一人で出歩いてたんだあいつは」
 もう一つ大きなため息を吐き出すと、窓枠から降りて廊下に出た。ちょうど前方から近づいてきた執事が恭しく頭を下げる。
「リュック様、ケクラン商会のガストン・ケクランと名乗る方がおいでになっておりますが」
「ケクラン?」
 確かロシエル国内で手広く商いをしている豪商の名だ。貿易が主で、東方の珍しい品々を取り揃えた彼の店は貴婦人方にも重宝されている。父の仕事関係だろうか。
 生憎と父は不在だと伝えに応接室へ向かうと、待っていた肉付きのいい中年男はにこやかに首を振った。
「いえいえ。幸いノリス男爵とは何度かお話しさせていただく機会がございましたが、今回はこちらをお届けに参りました」
 そうして机の上に出されたのは、赤いビロード張りの化粧箱である。首を傾げるリュックに、ケクランは機嫌良さそうに続けた。
「リアーヌ様に、さる殿方からの贈り物でございます」
「馬!」
「は、馬、でございますか?」
「いや、何でもない」
 わざとらしく咳払いを一度すると、件の「さる殿方」とは何者なのかと尋ねる。
「申し訳ありません。依頼主の素性はまだ秘密という契約になっておりまして。ですから、御品も私どもでこちらにお持ちした次第で。次の舞踏会できっとお目にかかれるだろうと仰っておりましたが…………あの、私、リアーヌ様に直接お渡ししたいと執事殿にお伝えしたと思うのですが」
 ときょろきょろ視線を泳がすケクランと「贈り物」を交互に見やり、リュックは機転の利く自家の執事に内心満足した。
「妹は所用で屋敷にはいない。ああ、それとこれだが」
 と、いかにも高価そうな雰囲気漂う化粧箱をリュックは顎の動きだけで示した。
「得体の知れない者からの贈り物など受け取るわけにはいかない。妹への物なら余計にそうだ。というわけで、持ち帰ってくれ」
「えっ、ちょっとお待ちください。リュック様!」
 言いながら立ち上がってケクランの声を背中で聞く。廊下で待機していた執事に目配せで商人を追い返すように指示すると、リュックは憤然としつつ自室へ向かった。
 恐らくあの化粧箱の中には高価な装身具が入っているのだろう。のぼせあがったリアーヌがまんまとそれを着けて舞踏会に行けば、会場で「その宝石が僕と君を引き合わせてくれた」とかなんとか言って口説こうとするに違いない。
「ふん」
 男なら小細工などせず己の魅力で勝負しろ。
 その通りに己の魅力だけで数多くの女性を陥落してきたリュックだが、例え謎の男が正々堂々と挑んできたとしても最早条件反射のごとく全力で妹の恋路を妨害するだろう。
 本人に自覚はないが、リアーヌは身内びいきを差し引いても美人だし小さな頃から密かにもてていた。まあ、少年達が抱く淡い恋心など、ずっと年上の兄の手にかかれば簡単に蹴散らすことができたが。
 しかしもう、リアーヌは社交界デビューを済ませている。社交の場で結婚相手を探すために、様々な夜会に出席する。
 そうだ……そうなのだ。
「何やってるんだ俺は」
 脱力して足が止まる。背中を壁に預け片手で顔を覆い、最後にもう一つ、またため息が零れた。


 天井からぶら下がる豪奢なシャンデリアに灯る蝋燭の火は、最新のガラス製の本体を巨大な恒星のように輝かせる。リアーヌの家にあるのは旧式の真鍮製なので、こうして見ているだけでも夢のように美しいと思う。
 広間はノリス家のものより三倍は広いと思われたが、それを埋め尽くすほど多くの招待客がひしめいている。さすがは王宮の信頼篤い大貴族、ヴェルニエ子爵家の舞踏会だ。
 ようやくこれで二度目の夜会となるリアーヌは、ただただ場の雰囲気に圧倒されて言葉もない。しかし今夜はリュックが一緒に出席してくれたのだ、あまりみっともない真似はできないと気を持ち直して振り向けば、隣にいたはずの兄はどこにもいなかった。
「え、どうして?」
 まさかもう妹をほったらかしにして、今宵のパートナーを物色しに行ってしまったのだろうか。そうだったら余りに酷過ぎる。
 がっくり肩を落とすリアーヌに声をかけてきたのは、柔らかな水色のドレスを纏ったミシェルだった。
「来てくれたのね、嬉しいわ。……どうしたの、元気ないみたい」
「そんなことないわ。少し緊張しているせいなの」
「初々しくて可愛らしいこと。あなたがノリス男爵のお嬢さんね」
 ミシェルの横には、いかにも優雅な空気を纏う金髪の貴婦人が立っている。優しげな青色の瞳と目が合えば、何とも言えない気恥ずかしさに襲われてリアーヌは頬を赤らめた。
「リアーヌよ、お母様。今日はお兄様の……あら、リュック様はどこに?」
「それが気が付いたら、もうどこかへ行ってしまったみたいで」
 恐縮するリアーヌに、ヴェルニエ子爵夫人は扇子で口元を隠しながらころころと笑う。高貴な女性特有の気難しさは感じられず、やはりミシェルの母親なのだなと好ましく思えた。
「ノリス男爵家の御子息は随分魅力的な殿方だと噂に聞いていますよ。ミシェルがいつもあなた方御兄妹に仲良くしてもらえて、本当に感謝しているわ」
「いえ、私の方こそミシェルには助けてもらうことが多くて」
「まあ、そう? この子は小さな頃から本当に身体が弱くて、殆ど屋敷から出たことがなかったの。こうしてお友達を紹介してもらう日がくるなんて夢のようだわ」
 母親とは、こんなにも慈愛に満ちたものなのだろうか。穏やかな語り口から滲み出す娘への気持ちが痛いほどに伝わってくる。
 リアーヌの母はリアーヌを産んでひと月と経たずに亡くなった。父が再婚しなかったことが、自分にとって良かったのか悪かったのか分からない。だが、子爵夫人のような人が母と呼べる人だったらどんなにいいだろうと思った。
「ごきげんようヴェルニエ子爵夫人。あら、お嬢さんが……お二人でしたかしら? 三人とも雰囲気がよく似ていらっしゃいますわ」
 子爵夫人を見知っている貴婦人が挨拶に現れ、三人は一瞬お互いに視線を交わす。同じ金の髪、青い瞳。比べれば差はあるものの、言われてみれば似ていないこともない。
「まあ。確かにそうかもしれないわ」
 にこやかに笑む夫人とミシェルからかりそめの許しを得たような気がして、リアーヌも特に否定することなく笑って応えた。
 その後ミシェル達と一旦別れ、兄を探して会場内を歩いた。が、見当たらない。
 仕方なく居場所を求め、開け放たれたテラスの脇までやってきた。この辺りなら空気の流れがあって人酔いせずに済みそうだ。
 堂々と壁の花でいる度胸もないので、リアーヌは半分カーテンに隠れるようにして佇む。全く見知らぬ人に誘われるのも煩わしい。リュックに置き去りにされたせいで、なけなしの社交性すらどこかになりを潜めてしまったようだった。
 艶々とした、深紅に染められた自分のドレスの裾を黙ってつまむ。少しでも大人っぽく見えるようにと、散々考えた末に選んだ。今となってはこの鮮やか過ぎる色が悪目立ちして、あだとなってしまっているわけだが。
「そこにどなたかいらっしゃるのですか?」
 やはり簡単に見つかってしまった。仕方なく振り向けば、紺の燕尾服を着た恰幅の良い中年男が立っていた。
「どこか具合でも?」
「いえ、大丈夫です。ここで涼んでいれば平気ですから」
 男は人の良さそうな笑みを浮かべて頷き、ケクランと名乗った。貴族ではないが大店の経営者で、顧客が集まる舞踏会に呼ばれることがたまにあるのだという。
 ケクランにとっては仕事の一環で、「ダンスが苦手で私も逃げてきたくちです」とおどけたように言われれば、相手が年配ということもあって自然とリアーヌの警戒も解ける。
「お嬢様には初めてお目にかかりますね」
「リアーヌ・ド・ノリスです。でも私に営業するのは時間の無駄になってしまうと思うの、ケクランさん」
「少し休憩です。これを飲み終わるまで話し相手になっていただけると光栄なのですが」
 すれ違った給仕係からワインの入ったグラスをもらい、ケクランは軽く掲げた。

 ◇◆◇

「どうしたロベール」
 この場に来る予定のない友人を会場に見つけ、何か起こったのだと察した。視線で示し合わせて奥の通路まで移動してくると、リュックは声を抑えて問う。
 ここから奥は家人のプライベートゾーンだ。無遠慮に入り込んでくる客はいないだろうし、厨房を往復する使用人の動線からも外れている。ほんの少し会場から離れただけなのに、妙に静まり返って意識せずとも声音は小さくなる。
「内偵を進めていた娼館だが、きな臭い幾つかは同一の経営者ということが分かった。もっとも、表向きは全部別の人間ってことになっているが」
「証拠が揃ったなら捕まえに行けばいい。俺に遠慮することはないぞロベール」
「幸いにも俺は遠慮なんて無粋なものとは縁のない人生を歩いて来たんでな。お前が追われる身になったら真っ先に駆けつけて……」
「捕まえる」
「いや、これで楽にしてやる」
 とロベールが上着を少し開いて見せたのは拳銃だった。よくもこんなものを懐に隠し持って、子爵邸に潜り込めたものである。
「見ない型だな、新型か?」
「バーゼルから取り寄せた最新型だ。このリボルバーという丸い部分に弾を詰めて、五連発まで撃てる。試し撃ちしてみたがなかなか面白い」
 一年前にロシエル側が敗走し、多額の賠償金を支払うことになったバーゼル戦役。その隣国の名は忘れたくても忘れることはできない。
 当初はロシエル優勢と見られていたが、結果的に大敗したのはことごとくロシエル側の戦略がバーゼルに筒抜けだったからである。ロシエル軍は裏をかかれ、死ななくてもいい人間が大勢命を失うことになった。
 当然軍内部に密偵が入り込んでいると思われたが違った。漏れた情報は重要なことから些細なことまで多岐に渡り、調査を進めると娼婦相手に寝物語で語った内容だということが分かったのだ。何度か潜入捜査を経て、娼館で特定の部屋に意識を混濁させるお香が置いてあるのは既に確認済みだ。
「まさか情報が全部女から漏れたとは大っぴらに言えない。くれぐれもこっそり調べろと殿下から口を酸っぱくして言われた」
「ロベールが当たりをつけておいた男は、ちょっと目を離した隙に顔を潰されて神殿跡に転がってたからな。表立って動けないというのもなかなか歯痒い」
 リュックは直接の面識は殆どないが、彼らの直属の上司はロシエルの王子である。たとえどんな理由であろうとも、これは国家の威信をかけた隠密なのだ。
 同時期に退役したロベールから誘われてこの隠密任務に加わったが、軍人時代でも素性があやふやだった友人が公爵家三男で、王子とは従兄弟同士ということをその時に知った。まあ、今更態度を改める気にもならなったしロベール自身もそれをよしとしているから、二人の関係性に大した変化は訪れなかったが。
「ああ、それでな、複数の娼館を裏で束ねているのもどうやらバーゼル人らしい。もう何十年も前からロシエル人になりすましていて、この舞踏会にも呼ばれている」
 なるほど、だからロベールがここへやって来たのか。と頷きかけたところへ「ガストン・ケクランという男だ」と言われ、リュックの動きが止まった。
 ケクラン――ケクラン商会。リアーヌに謎の依頼者からの贈り物を持ってきた男。
「リアーヌが……」
「こんなところにいらっしゃったの?」
 リュックの声を打ち消すように飛び込んで来たのは、意外にもミシェルだった。
 反射的に身構えた男二人はすぐに警戒を解き、さり気なさを装うようにごきげんようと挨拶をして見せる。
「何を悠長な。それにどうしてリアーヌの側にいらっしゃらないの、リュック様!」
 肩で息をし、髪とドレスが乱れているのも構わずミシェルは大きな声を出す。リュックの記憶の限り、こんなふうに激高している彼女を見るのは初めてだった。
「リアーヌが誰かに連れ去られたのです。わ、私、ほんの一瞬ですけど、ちゃんとこの目で」
 たまたま窓から中庭を見た時、赤いドレスを着た女性を肩に担ぐ男をミシェルは見た。すぐ木陰に入ってしまい一瞬しか見えなかったが、あれはリアーヌに見えたとミシェルは言う。
 今夜は賓客が集まるため子爵家の警備はいつもより厳重だ。犯人が上手く抜け出せたとしても、今ならまだ追いつけるはずだと。
「分かった、ありがとう」
 震えの止まらないミシェルの肩に手を置き、リュックはそのまま駆け出した。へたへたと床に座り込むミシェルを覗き込むように、近づいたロベールが跪く。
「このことは他に?」
「いいえ」
「ではここだけの話に。必ずリアーヌは助けるから、君は少し休んでから戻るといい。酷い顔色だ」
 それだけ言うとロベールもまた、リュックの後を追って姿を消した。

 ◇◆◇

 後頭部に酷い衝撃を感じて、リアーヌの意識が一気に浮上する。
 ここはどこだろう。真っ暗な視界の中、ぼやけた思考が段々と形になってくる。
 その時またガタンと大きな音が鳴り、一瞬身体が浮き上がってしこたま後頭部を床に打ちつけた。
 さすがにこれで目が覚める。リアーヌはケクランに攫われて、馬車の座席ではなく床の上に放り出されていた。
 悪路を走っているようで、車輪が跳ねるたびに馬車が酷く揺れる。起き上がろうとしたが両手が後ろで縛られていて自由が利かない。
 そうこうもがいているうちに、何故か馬車が停まった。
 未だにどうしてこんな事態になっているのかリアーヌには理解できない。ケクランはいかにも人畜無害に見えたが、テラスに出てしばらく話しているうちに何となく不安を感じた。
 何故だろう。頼りない月明かりの下、彼の声を聞いていると何やら嫌な予感がしたのだ。適当なところで切り上げて中に戻ろうとしたが、あれよあれよという間にひと気のない方へ追いやられ、みぞおちに激痛を感じたと思った時には既に手遅れ。気が付けばここに転がっていたというわけだ。
 辛うじて床に座ったリアーヌの目の前で馬車の扉が開く。空の半月と御者台の方から漏れているランタンの光、それが今ここにある光源の全て。
 ケクランを後ろから照らすその光は、逆に彼の顔に影を作って真っ黒に塗り潰す。身体の輪郭だけがぼうっと浮き上がる光景に、リアーヌは何かを思い出しそうな気がした。
「参ったよ。貴族の姫さんは周囲の守りが堅くて近づくことすらなかなかできないんだから」
 めしり、とケクランが馬車内に一歩踏み込んだ時に音がした。
 そろそろとこちらに伸びてくる太い指に目を見開き、リアーヌは座ったまま後ずさる。だが幾らも移動できずに行き止まりだ。
「な、何をするつもり」
「何をするつもりって……こんな上物だ、うちの店に出すことも考えたがすぐに足が付く。勿体ないが、あんたにはここで死んでもらおうと思ってるよ」
 まるで他愛ない世間話の一つのようにさらりと語り、ケクランは喉の奥で小さく笑った。
「店」とは、輸入品を扱うケクラン商会で売り子でもさせようと? ああ、違った。この男は自分を殺すと今まさにそう言ってのけたではないか。
「いやあ!」
 縛られて不自由な手の代わりに、足をめちゃくちゃに蹴り出して何発かがケクランに当たった。想像ではケクランが馬車内から転がるように吹っ飛び出るはずだったが、現実は尻もちをついただけだ。おまけにずんぐりむっくりな身体が唯一の出口を塞ぎ、結果的には何の足しにもならなかった。
 その時ぱさりと床に落ちた物。軽く、ふさふさとした……髪?
 視線を上げたリアーヌの目の前には、自分と同じく床に座り込むケクランの頭頂部が飛び込んでくる。綺麗に頂上だけが丸く素肌になっている。まるでそこに、小皿でも乗せているのではと一瞬思わせる艶やかさ。それが月光に反射して光りを――
「……真ん中ハゲ」
 ――苦労してあんな所まで行ったのに、あの真ん中ハゲともじゃ髪のせいで――
 現状と記憶が忙しく行き来し、リアーヌははっきりと思い出した。月の雫を取りに行ったあの夜、楡の木の下にいた二人の男の片割れ。
 顔の中までは見えなかったが、満月の明かりを中途半端に反射するその頭は忘れようもない。ケクランと会話していて不安を感じたのは、声に聞き覚えがあったからに違いなかった。
「真ん中……貴族の娘にしては随分と口が悪い。それにしても、やはりあなたはあの場にいたようですね――――見たのでしょう?」
 何を。聞き返す間もなくケクランが飛びかかって来た。身体を馬車の壁に押し付けられて簡単に動きが封じられてしまう。
「これはあんたの物だろ」
 片手でリアーヌを抑え込んだままケクランが懐から取り出したのは、見覚えのある懐中時計だった。薄暗い中でも浮かび上がる銀時計の裏側には、しっかりとリアーヌ・ド・ノリスの名前が刻まれているはずだ。あの夜に失くした、懐中時計。
 太い指に喉元を掴まれる。容赦なく締め上げる力に、例えようのない恐怖が背中を駆け抜けた。息を吸い込もうにも喉の奥がぺちゃんこになって、奇怪な音を微かに鳴らすだけ。
 苦しい。のしかかって来るこの男を払い除けたいのに手は自由が利かず、足までもが上に乗られて動かすことができない。
 兄さま。兄さま。助けを求める声は呻きにさえならなかった。
 自分はこんなところで、わけも分からず殺されてしまうのか。だったら後先を考えずに告白でもなんでもしておけばよかった。
 いや……そんなことをしたら、自分が死んだ後もずっとリュックは負い目を感じ続けることになるかもしれない。本当はすごく優しい人だから。
 このままで良かったかも、しれない。
 人の道を外れた想いは、このままリアーヌ一人が抱えて逝けばいい。
 遠ざかる意識の中で、リュックの声が聞こえたような気がした。幻聴でも何でも、最後に大好きな人の声を聞くことができて、リアーヌはどこか幸せだった。

「その汚い手を離せ、バーゼル人」
 扉が開け放たれたままの停車した馬車の中、底冷えするような声音と首筋に感じた刃物の気配にケクランは動きを止めた。半分振り返り、横目で笑ってみせる。
「これはノリス男爵家の。先日はどうも」
「離せと言っている」
 躊躇いなく食い込む刃先がケクランの皮と肉を浅く切った。しかし派手な出血はなく、ぎりぎりのところでリュックはナイフを止める。少しでも動けば刃が喉に食い込む状態に、ケクランは強制的に軽口を終了させられた。
 ケクランの手がリアーヌから離れた途端、リュックは力任せにケクランを馬車から引きずり出した。地面に叩きつけ、頭を蹴飛ばし、腹にも一発お見舞いする。全くやり足りないが、失神した太った親父より動かないリアーヌの方が心配で馬車の中へ戻った。
「リアーヌ、おいリアーヌしっかりしろ」
 持ち上げた身体はくたりとして、まるで人形でも抱えているようだ。口元に手を当ててみる――――息をしていない。不安が心臓を抉り、一瞬呼吸することさえ忘れた。
「リアーヌ、リアーヌ!」
 暗い馬車の中で白く浮き上がるリアーヌの頬を叩く。まるで悪い夢を打ち払うかのように、細い肩を激しく揺すった。すると、長いまつげが微かに震える。
 唐突に開く小さな口、息を吸い込み、咳き込む。
「リアーヌ、よかった」
 まだ咳き込む華奢な身体を思わず抱き締め、リュックは見たこともない神に感謝した。服越しにもじわりと身体の温かさを実感し、ようやく心が安堵する。
 もう少しで失ってしまうところだった。ほんの少し目を離した隙に、永遠に失ってしまうところだった。
 胸の中でリアーヌが何か呟いたような気がして離すと、ようやく呼吸が落ち着いてきた彼女は薄眼を開けてぼんやりとくうを見た。視線はリュックを通り抜け、その後ろへ。
 振り返った先には、馬車の出入り口から覗く黒い空に浮かぶ半月が。
「……は取れなかったけど、これはこれ、で」
「え、何だって?」
 小さくなった語尾を追いかけるように顔を覗き込めば、リアーヌはすうすうと寝息をたてて眠っていた。ほんの数瞬前まで死にかけていたくせに、何とも気の抜ける寝顔だった。
 リュックはリアーヌを抱え込んだまま背中を座席に預け、深いため息をつく。
「肝が据わってるのか単に能天気なのか」
 自然と口元が緩む。昔からリアーヌのこんなところにずっと救われてきた。本人に言えば、きっと顔を真っ赤にして怒るに違いないが。
 自分の腕に収まって眠る大切なもの。
 それは十六年前のことを彷彿とさせる。
 難産の末に生まれた妹は虚弱児だった。当時の生活は父の借金で困窮し、満足に医者に診せることもできずに母を亡くした。しばらく後に妹も高熱を出して衰弱し、何とか頼み込んで医者に診てもらおうと、あの日リュックは赤子を抱えて家を飛び出したのだ。
 あの頃はまるで泥の中で生きているような思いだった。何もかもが苦しく、誰もかもが貧乏な自分達に冷たかった。
 その途中に絶望的な気分で通りがかった大きな屋敷。不意に有名な貴族が避暑に来ているという噂を思い出し、すごい金持ちなら一所懸命頼めば妹の医者代を恵んでくれるかもしれないと思った。何の根拠もない希望を抱き、リュックは屋敷に潜り込んだのである。
 何故あの時、自分は正面から堂々と頼みに行かなかったのだろう。みすぼらしい恰好をした子供の懇願など一蹴されてしまうと思ったからだろうか。
 しかし庭から忍び込まなければ、木陰に置かれた豪華な揺りかごの中で眠るもう一人の赤子を目にすることはなかった。
 ほんの一瞬だけ開いた青い目も、柔い金髪も妹と同じで、二人の赤子の顔立ちもよく似ていることに気づくことはなかっただろう。
 そうだったなら、実の妹とその赤子を取り換えたりはしなかった。いや、できなかった。
「リアーヌ」
 それはリュックの妹のための名だった。だがもう今は、目の前にいる彼女の名だ。リアーヌと呼んで思いつくのは彼女しかいないのだから。
 金持ちの家の子になれば病弱な妹も生きていける。子供の浅はかな思いつきで、彼女は輝かしい未来を無理やりむしり取られたのだ。まさにリュックの手で。
 この罪は一生償うことはできない。だからその分、己のできる限りで新しい妹を守ろうと思った。どんな困難からも、どんな不幸からも、どんな敵からも。
「そして俺からも」
 柔らかな白い頬にそっと指を這わせる。この世のどこに、妹に触れて陶酔する兄がいる。
 簡単に触れられなくなった己に気付いた時、リュックは家を離れることを選んだ。
 父が偶然爵位を継ぐことになった時、半分安堵したのは確かだ。しかし本来彼女が育つはずだった環境はノリス男爵家より遥かに華やかで、惜しみない両親の愛情も確約されていたはずだ。
 忍び込んだ屋敷に逗留していた貴族の名はヴェルニエ子爵という。娘の名はミシェル。
 半年前に帰って来た時、リアーヌからミシェルを紹介された時は正直内心うろたえた。どれだけ時が経とうとも、過去の罪がリュックを追いかけて来たのだと思った。
 戻って来たくはなかった。けれど、戻って来たかった。気が付けば庇護から執着へと変わっていた唯一の者の元に。
 視線が、自然と可憐な唇に縫い止められる。
 考えるよりも先に、胸で膨らんだ熱いものが脳を侵して上身を傾けた。唇を、寄せる。
「リュック、取り込み中にすまないがそろそろ撤収しないと人目につく」
 リュックより遅れて到着したロベールが、馬車の外で手際良くケクランを縛り上げていた。
 振り返って眉間に皺を寄せるリュックに、友人は薄い笑いを浮かべる。
「なんだ、まだしてなかったのか」
「…………うるさい」
 リュックが傷を負って死線をさ迷っていた時に漏らしたつぎはぎのうわ言を、勘の良過ぎるロベールだけが正確に把握した。まさに一生の不覚である。
 ロベールはちらりと馬車内を覗き込み、今度こそ普通に笑む。
「気持ち良さそうに寝ている。お前はこのまま屋敷へ彼女を送ってくるといい。俺はケクランの屋敷と店を見張らせている奴らと先に始末をつけに行く」
「分かった」
「出遅れたせいでまだこれを使ってないからな」
 にこやかに言いながらロベールが手で弄んでいるのは、先ほど見せた五連発できるという拳銃だ。リュックは結果的にケクランを助けてしまったことになるのだろうか。まあどちらにせよ、ケクランの存在は秘密裏にロシエルから消えることになるのだろうが。
 リュックはケクランの馬車で、ロベールは自分が乗って来た馬で。
 別れ際、思いついたようにロベールが漏らす。
「ただの淑やかな娘だと思っていたら、今日はミシェル嬢の興味深い一面を見た。伊達に血は繋がってない」
 真っ直ぐな性根とは言い難い友人は、ときに相手の反応を楽しむために余計な一言が多い。ここで相手にしてはいけないと無視を決めこんでいたリュックだったが「俄然興味が湧いた」というロベールの言葉で反射的に「駄目だ」と叫んでいた。
「どっちも駄目とは随分欲張りな兄だな。いいじゃないか、将来は公爵夫人かもしれないぞ」
「駄目だ、絶対駄目」
 途中二手に分かれるまで、この不毛な掛け合いはずっと続いた。

 ◇◆◇

 翌朝のノリス男爵家では、令嬢が朝っぱらから屋敷内を徘徊していた。
 昨夜の事件など何のその。朝日と共に爽やかに目覚めたリアーヌは、その後に顔を蒼くし、そして何故か口元をふにゃりと緩めて頬を赤らめた。
 身支度を整えた後は朝食が用意されているダイニングまで移動するのが常なのだが、目的地へ真っ直ぐ進まず迂回しては、うろうろうろうろ朝から鬱陶しい行動を続けている。
 どうして気が付いたら自分の部屋にいたのかしら。いえそれより一刻も早く、心を落ち着けて平静を取り戻さないと。このままじゃ――
「このままじゃ? 何だというんだリアーヌ」
 思考がそのまま漏れていることに気付かなかったリアーヌは、突然背後から聞こえた声に全身が固まる。返事を促すように「うん?」と言いながら耳元へ顔を寄せた兄の吐息に、まるで落雷でも落ちたかのような衝撃が駆け抜けた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁー!」
 まるで賊にでも遭ったかのような悲鳴を上げ、リアーヌは兄を振り切り猛烈に走り出す。 結局自分の部屋へ戻って来ると、ようやく大きな深呼吸をしながら床にへたり込んだ。
 頬どころか、耳の先まで真っ赤になっているのが鏡を見なくても分かる。こんな顔ではとても部屋の外に出るわけにはいかなかった。
 昨夜リアーヌは確かにケクランに襲われた。しかし今無事なのだから、誰かに助けてもらったに違いない。問題は、昨夜見た夢だ。
 リュックとしっかりばっちり口づけをする、ものすごくリアルな夢を見たのである。それはもう、今こうして思い出すだけで赤面してしまうくらいの。
「ああ、夢よ。夢なのにどうして私ったらこんなに動揺してるのよ、馬鹿ばか」

 妹が一人悶々としている一方、雄叫びを上げながら逃げられたリュックの顔は衝撃のまま固まっていた。何しろリアーヌの悲鳴を聞いて駆けつけた執事が驚くくらいだから、よっぽどすごい顔になっていたに違いない。
「まさか、あの時目が……」
「は、何でございますかリュック様」
「してないのに……いや、何でもない。忘れろ」
 ノリス家の執事は仕事のできる男だったので、それ以上は突っ込まず黙って頷いた。


 後日ロシエルでは、軍内での機密管理に関する意識改革のため、特別訓練という名を借りたしごきが王子によって実行される。リュックとロベールは、かつての仲間に「いい時期に辞めたな」と揶揄されるようになった。
 今まで規制の甘かった娼館経営も、経営者には国の厳しい審査が必要になり規約が増えた。
 もちろん、改正に至った真の理由は――今も明かされていない。

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